多くの勤務医は夜勤、時間外勤務と当直、宿直の区別なく、日夜働いています。新しい臨床研修制度と、国立大学が独立行政法人になったことなどを受け、厚生労働省は、研修医をはじめとした勤務医の労働を法 ( 労働基準法 ) に則ったものにする方向を取り始めました。

研修医も他の勤務医も、雇用する側の医師も、労働基準法の内、最低限必要なところを知っておいた方がよいかと思われます。

*最低限の労働基準法 [#yc8a4db1]

:第 32 条|使用者は、労働者に、休憩時間を除き 1 週間について 40 時間を超えて、労働させてはならない。
:|2 使用者は、1 週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き 1 日について 8 時間を超えて、労働させてはならない。

:第 34 条|使用者は、労働時間が 6 時間を超える場合においては少くとも 45 分、8 時間を超える場合においては少くとも 1 時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

:第 35 条|使用者は、労働者に対して、毎週少くとも 1 回の休日を与えなければならない。

:第 36 条|使用者は ..... ( 中略 ) ..... 行政官庁に届け出た場合においては、 ..... ( 中略 ) ..... 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。..... ( 以下略 )

:第 37 条|使用者が、..... ( 中略 ) ..... 労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の 2 割 5 分以上 5 割以下の範囲内で ..... ( 中略 ) ..... 割増賃金を支払わなければならない。
:|2 ( 略 )
:|3 使用者が、午後 10 時から午前 5 時まで ..... ( 中略 ) ..... の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の 2 割 5 分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

:第 41 条|( 略 ) ..... 労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
:|1. ( 略 )
:|2. ( 略 )
:|3. 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

*当直、宿直、日直、夜勤、時間外労働 [#h38da380]

**当直、宿直、日直 [#wd15a07e]

労働基準法第 41 条による労働基準監督署長の適用除外 ( 監視断続労働、断続的労働 ) の許可を受けると、 労働時間、休憩、休日に関する規定が除外されます。宿日直勤務はこれにあたります。この適用除外の許可は、

-その勤務内容が通常の勤務と比べて労働密度が低い ( 通常の業務は殆ど行われない )
-労働時間等の規定の適用をしなくても労働者保護に欠けることがない

ような場合に下されます。

この許可を受けると、労働者を安い賃金 ( 宿日直手当 : 賃金の 1/3 以上 ) で長時間拘束できます。例えば、

-定時の見回り、盗難防止の巡回
-電話番 ( 緊急の文書や電話の授受 )
-非常事態に備えての待機
-医療機関であれば、病室の巡回や少数の患者の検温など

というような業務の場合、宿日直の適用除外許可が出ることになっています。

-宿直は週 1 回、日直は月 1 回が上限という条件も付きます。
-病院における医師、看護師の宿直、社会福祉施設職員には許可基準が別枠で細かく定められています。
-宿直には、相当の睡眠施設を備えることとなっています。

当直とは、本来はこの宿日直のことですが、現実には、夜間や休日の労働 ( 通常業務 ) になっています。夜間休日に何人もの急患が来院し、電話の問い合わせは何件もかかってきますし、入院患者の処置や緊急事態の対応でほとんど休めず、となっている病院が多いでしょう。

-基準看護の病棟の看護師の夜間労働は、宿直、当直ではなく、夜間 ( 時間外 ) の通常業務 ( 夜勤、時間外労働 ) です。
-夜間救急当番病院の救急業務をこなす、いわゆる当直医は、当直と称しつつ、その実態は時間外労働をしています。法令で定める当直ではありません。労働基準法や税法上の問題 ( 宿日直と所得税 ) がある場合が少なからずあるはずです。

**夜勤、時間外労働 [#s344aec3]

夜間休日には当直とは呼べない業務をこなすのは、夜間、時間外の通常業務であり、夜勤、時間外労働です。

-労働時間や休憩時間の規定が適用される。
-賃金の通常の賃金額の支払い義務がある。
-深夜手当等の割増賃金の支払い義務がある。

日中通常業務に従事し、夜勤に就き、翌日も通常業務の場合、労働時間は 1 日 8 時間、1 週 40 時間を越えてしまうことがほとんどでしょう。それは残業になります。しかもこういう業務形態が毎週のようにあれば、厚生労働省が定める残業時間 1 月 45 時間も越えるでしょう。

**残業 [#n262c78b]

際限なく働かせることができる状況では、労働者の健康を守ることはできません。最大どれくらいまで労働者を働かせることができるか、最低限のルールとしてその限度も定められています。

-1 日 8 時間、週 40 時間の法定労働時間を超えて働く場合、労使で協定すれば残業することができる。
-残業は、1 週間で 15 時間、1 カ月 45 時間、3 カ月で 120 時間以内
-この限度を超えることができる期間は、年間で通算 6 カ月以内
-限度時間を超えて時間外労働ができるのは特別の事情が生じたときで臨時的なものに限る。
-臨時的なものとは、一時的に残業する必要があり、通算で半年を超えない業務。仕事上で必要とか、やむを得ないときは該当しない。

**参考 [#tfdf77d2]

-[[労働基準法]]
--[[医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について]] ( [[pdf 580KB:http://hcoa.cocolog-nifty.com/pdf/20020319_0319007.pdf]] )
--[[医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について]] ( [[pdf 460KB:http://hcoa.cocolog-nifty.com/pdf/20021128_1128001.pdf]] )
-[[小児科医過労死労災請求及び訴訟:http://homepage2.nifty.com/endo-law/template/05-5.html]] [[( フェアネス法律事務所 ( 遠藤直哉弁護士 ) ):http://homepage2.nifty.com/endo-law/template/05-5.html]]
-[[「過酷な当直医」厚労省が初の実態調査へ:http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/7844/work.htm]] [[( 医学部受験をはじめるに当たってのFAQ ):http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/7844/work.htm]]
-[[「レジデント労働時間は週80時間以内」規制を設けたニューヨーク州の実際 ( 週刊医学界新聞 2003.10.13 ):http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2003dir/n2555dir/n2555_02.htm]]
-[[北大病院、過重労働と当直廃止 労基署が指摘、4月から交代制勤務 ( 北海道新聞 2004.6.24 ):http://hb8.seikyou.ne.jp/home/sakuragaoka/ishi040624.htm]]
-[[労働問題相談室【宿日直勤務について】:http://www.pref.oita.jp/14550/rousei/sodan/sou4-3.html]]
-[[休日についての労基法の規制:http://www7a.biglobe.ne.jp/~tsudax99/tebiki/rodojikan/kyujitu.htm]] [[( tsudax99 ):http://www7a.biglobe.ne.jp/~tsudax99/]]
-[[宿日直勤務について:http://www.pref.saitama.lg.jp/A07/BL00/so-dan/jireishu3-7.html]]
-[[日直勤務者の許可基準は:http://www.chosakai.co.jp/utility/q&a/r_qa/QAJ2-46.htm]] [[( 労働調査会 ):http://www.chosakai.co.jp/]]
-[[月6回の宿直は違法?:http://www.kensyokurou.ne.jp/tinginkenri/Q&A/syukutyoku.htm]] [[( 神奈川県職労 ):http://www.kensyokurou.ne.jp/]]
-[[「過労死の温床に」に歯止めを:http://www.zenkoku-ippan.or.jp/07topics/20031105zangyou/20031105zangyou.htm]] [[( 全国一般労働組合ウェブサイト:http://www.zenkoku-ippan.or.jp/]]、2003.11.6 共同通信 )

**参考 2 [#b4f14f8d]

-[[未確認資料>医師と労働基準法/未確認資料]]

*国立大学法人での医師の裁量労働 [#p4290f5b]

厚生労働省は、2006 年 2 月 15 日に、国立大学病院の医師を裁量労働制で勤務させることを容認する通知を出しました。

**「労働基準法施行規則第 24 条の 2 の 2 第 2 項第 6 号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務を定める告示の一部を改正する告示の適用について」の一部改正について [#g4b6c36d]

***基発第 0215002 号 平成 18 年 2 月 15 日 厚生労働省労働基準局長 [#jeda3915]

-[[PDF 232KB:http://hcoa.jp/pdf/2007/sairyo.pdf]]

教授、助教授、講師でチーム制で診療している場合に適用してよい、というものの様です。

*報道資料 [#pdb23dfa]

**労基署立ち入りの医療機関、8割が労基法違反 [#jca5c280]

***Nikkei Medical ONLINE 2007.11.16 [#jc5e13ab]

***トップは「違法な時間外労働」 [#d9130924]

労働基準監督署(労基署)が2006年中に立ち入り検査した医療機関のうち、約8割で何らかの労働基準法(労基法)違反があったことが、厚生労働省の集計で分かった。全業種の平均よりも高い割合となっており、医療機関の労働環境の改善が求められている。

対象となったのは、06年に労基署が立ち入り検査した医療機関1575カ所。何らかの労基法違反があったのは1283カ所で、全体の81.5%に当たる。全業種の平均値は67.4%だった。

主な違反の内訳は、以下の通り。

(1)違法な時間外労働をさせた 802件(50.9%)

(2)時間外労働に対する適切な賃金を支払わなかった 559件(35.5%)

(3)就業規則の作成や届け出に不備があった 482件(30.6%)

(4)労働条件の明示に不備があった 334件(21.2%)
 
(1)は、労基法32条違反に該当。労働者に時間外労働をさせるには36協定を労使が結んで労基署に許可を得なければならないが、36協定を締結していなかったり、締結していても協定で定めた限度以上の時間外労働をさせていた場合などが含まれる。なお、厚労省は告示で月45時間、年360時間以上の時間外労働をさせないこととしているが、36協定の中に特別条項としてそれ以上の時間外労働を認めるような記載がされていれば違反ではない。

(2)は、労基法37条違反に該当。時間外労働に対して賃金を支払っていなかったり、割増をしていなかったケースが含まれる(残業や休日勤務をした場合、25%〜50%の割増が必要となる)。

(3)は、労基法89条違反に該当。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を定めて届け出なければならない。届け出ていない場合のほか、規則に何らかの不備がある場合も含まれる。診療所で従業員を増員して10人を超えた場合に、規則を作成していなかった、なども違反になる。

(4)は、労基法15条違反に該当。使用者は労働者に対して、賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければならず、これらの条件を明示していない、あるいは条件に不備があったなどの場合が含まれる。

全体の違反の割合は、前年に比べて増えた。05年の集計では、1759カ所のうち1363カ所に違反があり(77.5%)、06年は4ポイント増加したことになる。

今回の調査結果は、医師の労働環境の悪さを示す一部のデータでしかない。上記(1)に記載したように、「特別条項」を記載して残業時間を合法的に大幅に増やすことのほか、医師を管理職扱いにして労基法の残業時間の縛りから外すということなどが行われている。厚労省はこうした部分の調査も踏まえ、医師の労働環境を改善する対策に着手すべきだろう。

(野村 和博=日経メディカル)

トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS