*インターンシップの法的問題 [#x2de3a68]

**注意したい、学生側の事故 [#t953c3d8]

まず、学生が企業内で作業中に事故により被災した場合、どう処理することになるでしょうか。事故といっても、地震などの自然現象による被災の場合は原則として企業に責任がないので除外できるとして、作業中に負傷したとか、オフィス内を移動中に転倒して負傷した場合が問題となります。これらの場合、通常の労働者であれば、業務遂行性・起因性が認められれば労災保険給付の対象となりえますので、インターンシップ学生についても労働者として扱っていれば、同様に処理できます。しかし、労働者として扱っていなければ、労災保険は利用できないことになります。

労災保険が適用できないとすると、学生には何らの補償もないのでしょうか。一般に、労働契約などのように、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間においては、付随義務として、当事者の一方が相手方に対し、信義則上、「安全配慮義務」を負うとするのが最高裁判所の判例であり(昭和50年2月25日民集29・2・143)、作業場所、設備、器具の安全を確保したり、安全教育を施すことを怠った結果、事故が起きたとすれば、使用者は民法上の損害賠償義務を負うことになります。インターンシップの場合、労働契約関係とはいえなくとも、インターンシップに関する合意に基づいて学生を企業に受け入れているわけですから、特別な社会的接触の関係に入っているということができ、企業側に安全配慮義務違反があれば、学生の被った損害について賠償責任を負うことになるでしょう(この場合、学生側に落ち度があれば、過失相殺の対象になります)。 

このようにみると、インターンシップ学生の労働者性を否定すると、学生にとって酷な場合が生じてしまいそうです。というのは、企業側に安全配慮義務違反が認められない場合には民法上の責任は生じず、また、学生が労働者ではないとすると労災保険制度の保護も受けられないことになるからです。 

しかし、これでは、学生が安心してインターンシップに募集できなくなってしまいます。やはり、受入企業としては、企業内での事故に対応できるよう、必ず賠償責任保険の導入を図るべきですし(「インターンシップ等賠償責任保険」という保険があるようです)、そもそも事故が生じないように、危険性の低い作業を選び、かつ、学生の就業環境の整備や安全教育を徹底するべきです。 

次いで、学生が通勤途上に交通事故に遭った場合はどうなるのでしょうか。この点、学生を労働者とみることができれば、労災保険制度上の通勤災害として保護を受けうる可能性がありますが、通勤途上の事故についてまで企業側に民法上の責任が生じるかは疑問があります。やはり、この点についても傷害保険などによってカバーせざるを得ないでしょう。

**損害・損失発生にも、注意する必要が [#g1d95375]

以上は学生が損害を被る場合についてでしたが、学生の就業によって企業に損失が生じた場合はどう処理すべきでしょうか。

不慣れのために学生が作業器具等を破損してしまうということがありえ、甚だしい場合には営業上の失敗(受注が受けられなくなったとか)による損失が生じることも考えられます。学生に落ち度(故意・過失)があれば、少なくとも不法行為に該当し、企業は学生に対して損害賠償請求権を取得することになりますが、そのような結果は、企業・学生の双方にとり、極めて不幸な事態であり、インターンシップの意義を失わせかねません。この場合も先に述べたことと同様で、そもそも企業に損失が生じるリスクのある作業に従事させるべきではありませんし、器具の破損等については保険でカバーするよう制度設計に努めるべきでしょう。

さらには、インターンシップで就業中の学生の行為によって、企業以外の第三者が損害を被る可能性もあります。実際には生じにくいでしょうが、インターンシップの分野が広がるに連れて、学生が外部の第三者と接する可能性も出てくるので皆無とまではいえないでしょう。通常の労働契約の場合、問題の行為が企業の事業の執行についてなされたものであれば、企業は、民法715条の使用者責任に関する規定に基づき、第三者の被った損害の賠償義務を負うことになります。インターンシップの場合、雇用関係がないことが多いでしょうが、使用者責任の成否に関しては契約関係の有無は重要ではなく、実質的に見て使用者(企業)が被用者(この場合、学生)を指揮監督する関係があれば足りるとされていますので、いずれにせよ、企業は第三者に対して損害賠償義務を負うことになると思われます。

企業が第三者に賠償金を支払った場合、企業は学生に対して、求償権行使(簡単にいうと応分の負担を求めることです)ができますが、これまたインターンシップの本来の意義を没却するものです。対処方法は、もうおわかりだと思いますが、このような事態にならないよう、学生が従事する作業内容を吟味することと、万が一起こってしまった場合に備えて各種の保険を付保しておくことです。

以上でおわかりのように、インターンシップ制度を導入するに当たっては、慎重な制度設計と相応の経費負担が必要になります。インターンシップ制度の意義に思いをめぐらせて、長期的なビジョンをもって取り組むことが求められているといえるでしょう。

***弁護士 大川治 ( 堂島法律事務所 ) [#k516c124]

おおかわおさむ。1969年生まれ。大阪大学卒、1996年弁護士登録(修習48期)。大阪弁護士会の当番弁護士年間最多出勤を2年連続で記録('96/'97)。その豊かなチャレンジャー精神と軽快なフットワークは、刑事分野にとどまらず幅広い分野に及び、ITも駆使しながら、より洗練された近代的な弁護士像を確立すべく奔走中。堂島法律事務所 Tel.(06)6201-0361 

**出典 [#q4a7f5a2]

DISCO Human Resource PLAZA http://www.hr-plaza.com/webmagazine/law/page09.html


トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS