*過労死関西医大研修医未払賃金訴訟大阪高裁判決 2002.5.9 [#dc75e378]

H14.5.9大阪高判決平成13年 (ネ) 3214、平成14年 (ネ) 107(棄却)

LEFT:出典 : 労働判例831号28頁
LEFT:出典 : http://www.lios.gr.jp/hanrei/rouki/07961.html

***判決理由 [#b7fa6b46]

当裁判所も、Aは、最低賃金法にいう労働者であると判断するが、その理由は、以下に当裁判所の判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中「第5 争点に対する当裁判所の判断」のうち、1(認定事実)及び2(Aの「労働者」性について)に記載のとおりであるから、これらを引用する。〔中略〕

控訴人は、B大学及びC高等専門学校が機関関係の学科、課程の学生に対し民間の事業場に委託して行う工場実習について、その実習を受ける実習生については、当該事業場との関係において原則として労働者ではないものとして取り扱うとする労働省(現厚生労働省)通達昭和57年2月19日基発121号を引用して、民間研修機関における臨床研修医も、労働者として取り扱われるべきものではないと主張する。

しかし、上記通達が民間の事業場に委託されるB大学及びC高等専門学校の工場実習生を労働者として扱うことをしないのは、〔1〕当該工場実習は大学等の教育課程の一環として、これらの学生に船舶職員法に定める甲種2等機関士(現行、3級海技士(機関))等の海技従事者国家試験の受験資格として必要な乗船履歴を取得させるために行われるものであることなどの実習の目的内容、〔2〕実習は、通常、現場実習を中心として行われており、その現場実習は、通常、一般労働者とは明確に区別された場所で行われ、あるいは見学により行われているが、生産ラインの中で行われている場合であっても軽度の補助的作業に従事する程度にとどまり、実習生が直接生産活動に従事することはないこと、あるいは、実習生の欠勤、遅刻、早退の状況及び実習の履修状況は、通常、まず指導技士によって把握・管理されているが、工場実習規程等に定める所定の手続きを経て、最終的には大学等で把握・管理されていることなどの実習の方法及び管理、〔3〕実習生には、通常、委託先事業場から一定の手当が支給されているが、その手当は、実習を労働的なものとしてとらえて支払われているのではなく、その額も1日300円ないし500円程度で、一般労働者の賃金(あるいは最低賃金)と比べて著しく低いことから、一般に実費補助的ないし恩恵的な給付であると考えられることなどの実態を総合的に勘案した結果であることが当裁判所に顕著な上記通達の内容からも明らかであり、委託実習が教育であり、実習を受ける生徒が被教育者であるとの一事から、実習生を労働者として取り扱わないとするものではない。このことは、同じ通達が、一般の大学の工学部等の学生又は工業高等専門学校の学生で工場実習を受けるものについては、実習の目的、内容、方法等が様々であると考えられるので、個々の実態に即して(労働者該当性を)判断すべきであるとしているところからも明らかである。〔中略〕

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LEFT:出典 : http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2313DCDBF9F7AF3E49256F390018DD06.pdf

主        文

1 控訴人の控訴に基づいて,原判決を次のとおり変更する。

2 控訴人は,被控訴人らに対し,それぞれ21万0622円及びこれに対する平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 本件附帯控訴をいずれも棄却する。

5 訴訟費用は第一,二審を通じてこれを4分し,その3を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。

6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 申立て

1 平成13年(ネ)第3214号(控訴)

(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

(2) 被控訴人らの上記取消しにかかる部分の請求を,いずれも棄却する。

2 平成14年(ネ)第107号(附帯控訴)

(1) 原判決を次のとおり変更する。

(2) 附帯被控訴人は附帯控訴人らに対し,それぞれ金29万7775円及びこれに対する平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件事案の概要は,以下のとおり原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」,「第3争点」及び「第4 争点に対する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これらを引用する。なお,以下においては控訴人・附帯被控訴人を「控訴人」,被控訴人・附帯控訴人を「被控訴人」という。

2 原判決の補正

(1) 原判決2頁6行目の「設置」を「開設」に改める。

(2) 原判決2頁22行目の「までの間,」の次に「控訴人が開設する」を加える。

(3) 原判決7頁1行目の「書面」の次に「(但し,6月18日の行の退勤時間列「22:30」を「22:40」に,同行C列「0.30」を「0.40」に,同行総労働時間列「15.00」を「15.10」に,6月23日の行の退勤時間列「22:30」を「翌2:50」に,同行C列「0.30」を「4.50」に,同行総労働時間列「15.00」を「19.20」に,6月25日の行の退勤時間列「22:30」を「23:10」に,同行C列「0.30」を「1.10」に,同行総労働時間列「15.00」を「15.40」に,7月9日の行の退勤時間列「22:30」を「翌2:05」に,同行C列「0.30」を「4.05」に,同行総労働時間列「15.00」を「18.35」に,7月30日の行の退勤時間列「22:30」を「翌1:30」に,同行C列「0.30」を「3.30」に,同行総労働時間列「15.00」を「18.00」に,8月1日の行の総労働時間の列「13.30」を「13.51」に,同表末尾の総労働時間の行のC列「83時間52分」を「95時間37分」に,同行総労働時間列「997時間16分」を「1009時間01分」に,いずれも改める)」を加える。

(4) 原判決7頁2行目の「997時間16分」を「1009時間01分」に,同頁9行目の「83時間52分」を「95時間37分」にいずれも改める。

(5) 原判決7頁12行目末尾を改行して「被控訴人らは当審において,手術への立会を理由として,Aの退勤時間についての主張を変更した。そうするとAの勤務時間についての被控訴人らの主張は,訂正前の原判決別紙から訂正後の同別紙のとおり変更されたこととなるが,被控訴人らは,これに伴う請求の拡張をしていない。よって当審における被控訴人らの請求は一部請求である。」を加える。

3 当審における当事者の主張

(1) 控訴人

① 医師法16条の2以下の臨床研修医制度は,殆どが座学もしくは見学中心の大学医学部の卒前臨床実習によって得た医学知識や技能しかない者を,一人前の,患者を相手に治療行為のできる医師に育てる教育であって,臨床研修を受ける研修医は被教育者である。

指導医は,臨床知識とその実技を研修医にじかに教え,指導するのが役目であり,そのために検査申込書の記載を指導したり,実際にやらせたりすることはあるし,入院患者の主治医でもある指導医が,研修医に治療法,その診断方法を説明するため,指導医の指導の下で簡単な処置を実施させたりすることもある。しかし指導医が研修医にこれらのことをさせるのは,あくまで研修の一環としてそれが研修医に不可欠の教育であるからであり,両者の関係は常に教育者と被教育者との関係である。これを補助労働だとか,指示であって諾否の自由はないなどの論を構えて,労働者性を引き出す論拠とするのは,臨床研修という教育作用の本質を曲解するものであり,誤りである。

② 民間研修機関の研修医を労働者として扱うということは,賃金の問題であるに止まらず,民間病院の使用者に対し要求を貫徹するための団結権,争議権をも与えるということである。一方,全額公的負担(税・保険料)で運営されている,国,公立の研修機関は,既存の地方公務員法,国家公務員法によって,交渉ルールや範囲,争議行為禁止等で法的措置が整備されており,ここに歴然たる官民格差が存在することになる。

これら制度的不備に何らの法的措置を講じないで格差を放置しておきながら,民間病院等の民間研修機関に,前記労働問題の負担と格差を押しつけることは,憲法14条の法の下の平等に違反する。

③ Aは,平成10年6月14日,7月13日,同月16日,同月26日,同月29日,8月13日は控訴人病院における副直をしていない。但し,7月8日は副直している。

6月13日は第2土曜で休診日であり,Aは研修医としての職務に従事していない。7月18日は第3土曜日で休診日ではなく,従って休日労働に該当しない。

(2) 被控訴人ら

① Aは,平日においては,午後10時頃まで控訴人病院内に止まって研修医としての業務を行っていた。従って,平日におけるAの基本的な勤務終了時間は,午後10時と認定されるべきである。

② 研修医は,手術に立ち会うものとされており,Aは,控訴人病院において午後10時を超えて行われた下記の手術に立ち会っている。従って,下記の日については,Aの勤務終了時刻は,下記の退室の時刻とすべきである。

(日付)          (退室時刻)
 平成10年6月18日    午後10時40分
 同月23日         翌24日午前2時50分
 同月25日         午後11時10分
 同年7月9日        翌10日午前2時05分
 同月30日         翌31日午前1時30分

第3 争点についての判断

1 当裁判所も,Aは,最低賃金法にいう労働者であると判断するが,その理由は,以下に当裁判所の判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中「第5争点に対する当裁判所の判断」のうち,1(認定事実)及び2(Aの「労働者」性について)に記載のとおりであるから,これらを引用する。但し,原判決9頁11行目の「火曜日」から「見学した」までを「Aらは,火曜日と木曜日には手術を見学することもあった」に改め,原判決10頁16行目から11頁5行目まで及び13頁11行目から同頁14行目までを,いずれも削る。

(1) 控訴人は,控訴人病院で研修を受ける臨床研修医と控訴人の関係は,教育者と被教育者の関係であって,研修医は労働基準法9条の「労働者」に該当しないと主張する。

労働基準法9条は,労働者を「職業の種類を問わず,事業又は事務所‥‥(中略)‥‥に使用される者で,賃金を支払われる者」と定義しており,Aが労働基準法上の労働者に該当するかどうかは,専ら上記労働基準法の規定の解釈にかかる問題である。そして,同規定の解釈上,Aを労働基準法上の労働者と見るべきことは,引用にかかる原判決が述べるとおりである。

(2) 控訴人は,商船大学及び商船高等専門学校が機関関係の学科,課程の学生に対し民間の事業場に委託して行う工場実習について,その実習を受ける実習生については,当該事業場との関係において原則として労働者ではないものとして取り扱うとする労働省(現厚生労働省)通達昭和57年2月19日基発121号を引用して,民間研修機関における臨床研修医も,労働者として取り扱われるべきものではないと主張する。

しかし,上記通達が民間の事業場に委託される商船大学及び商船高等専門学校の工場実習生を労働者として扱うことをしないのは,①当該工場実習は大学等の教育課程の一環として,これらの学生に船舶職員法に定める甲種2等機関士(現行,3級海技士(機関))等の海技従事者国家試験の受験資格として必要な乗船履歴を取得させるために行われるものであることなどの実習の目的内容,②実習は,通常,現場実習を中心として行われており,その現場実習は,通常,一般労働者とは明確に区別された場所で行われ,あるいは見学により行われているが,生産ラインの中で行われている場合であっても軽度の補助的作業に従事する程度にとどまり,実習生が直接生産活動に従事することはないこと,あるいは,実習生の欠勤,遅刻,早退の状況及び実習の履修状況は,通常,まず指導技士によって把握・管理されているが,工場実習規程等に定める所定の手続きを経て,最終的には大学等で把握・管理されていることなどの実習の方法及び管理,③実習生には,通常,委託先事業場から一定の手当が支給されているが,その手当は,実習を労働的なものとしてとらえて支払われているのではなく,その額も1日300円ないし500円程度で,一般労働者の賃金(あるいは最低賃金)と比べて著しく低いことから,一般に実費補助的ないし恩恵的な給付であると考えられることなどの実態を総合的に勘案した結果であることが当裁判所に顕著な上記通達の内容からも明らかであり,委託実習が教育であり,実習を受ける生徒が被教育者であるとの一事から,実習生を労働者として取り扱わないとするものではない。このことは,同じ通達が,一般の大学の工学部等の学生又は工業高等専門学校の学生で工場実習を受けるものについては,実習の目的,内容,方法等が様々であると考えられるので,個々の実態に即して(労働者該当性を)判断すべきであるとしているところからも明らかである。

臨床研修医は,既に医師国家試験に合格し,医籍に登録され,医師免許証を交付されて医業をなし得る医師であり,将来一定の資格を取得しようとする上記実習生等とその地位を並列的に捉えることはできない。のみならず前記認定のとおり,Aが従事していた研修の具体的な内容は,点滴,採血は自らこれを行い,指導医の許可を得た場合にはAらが一人で患者に対する処置をすることもあるというのであるから,患者に対する関係において研修医の行為と研修医でない医師の行為とが明確に区別されているとは認められず,研修医の勤務状況も研修機関である控訴人病院において管理されていたものと認められる。このような研修の実情からすれば,控訴人が指摘する前記通達の存在を前提にしても,Aが労働基準法9条にいう労働者に該当するという前記判断は左右されないし,このことは,司法修習生,あるいは看護婦ないし看護人養成所の生徒についての現行の扱いを考慮しても同様である。

(3) 控訴人は,民間研修機関が,労働問題の負担と格差を押しつけられることが,憲法14条の法の下の平等に違反すると主張するが,民間研修機関が研修医の受け入れないしその労働問題の負担と格差を「押しつけられている」と認めるべき根拠はない。

2 Aに支払われるべき給与について

Aの労働時間についての被控訴人らの主張は,前記のとおり訂正された原判決別紙「労働時間」に記載のとおりである(但し,具体的な争点については後述する)。

(1) 労働日と休日の別

① 労働基準法35条1項は,使用者は,労働者に対して,毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないと規定するところ,原判決別紙「労働時間」の被控訴人らの主張に鑑みると,被控訴人らは,毎週土曜日と日曜日及び国民の祝日がAの休日に該当すると主張するものと解せられる。

② 日曜日及び国民の祝日が休日であることについては,控訴人はこれを明らかに争わない。

③ 土曜日については,控訴人は,第1,第3,第5土曜日は休診日ではないと主張するが,控訴人の同主張は,これらの土曜日以外の土曜日が休日であることを認める一方で,これらの土曜日が休日であることを否認する趣旨であると解せられる。第1,第3,第5土曜日が休診日でないことについては被控訴人らは当審においてこれを明らかに争わない。

以上によれば,第1,第3,第5土曜日以外の土曜日は休日であるが,第1,第3,第5土曜日は休日とすることはできない。

④ 以上によれば,Aが研修医として控訴人病院に勤務していた期間の休日は,毎週日曜日,毎月第1,第3,第5土曜日以外の土曜日及び7月20日(国民の祝日である海の日)である。

(2) 各日の労働時間(原則)

① 月曜日から金曜日までの労働時間

(イ) 先に認定したところからすれば,Aの労働の開始時刻は,原則として出勤時間である午前7時30分と認めるのが相当である。

(ロ) 前記認定によれば,Aら研修医は,午後7時頃に点滴を終了した後も,午後10時頃までは控訴人病院内にとどまっていたと認められる。被控訴人らはこの点を捉え,労働終了時刻は,退勤時間である午後10時と認めるべきであると主張するのに対し,控訴人は,研修医が午後7時以降も病院にとどまることがあるとしても,それは自発的な研鑽のためであるとして,被控訴人らの主張を否認する。

よって判断するに,控訴人の主張によっても,研修医には,少なくとも毎週月曜日には,午後7時を過ぎても,麻酔申込みのために1時間程度の拘束があると認められること,研修医には患者の睡眠時無呼吸検査のため夜9時にアプノモニターを装着する仕事が割り当てられていたこと,この他にも,現在は当直医がすべきとされている仕事が,Aの勤務当時においては研修医がすべき仕事とされていたこともあると窺われること(乙15),研修医は見学生となるときに控訴人病院に宛てて見学生許可願を提出するが,Aは同許可願に研修従事時間等を1日15時間,1週7日と記載していること(甲8),研修医らは指導医が帰宅するより前に帰宅することはなく,指導医もアルバイトのため病院を出ているときには,外出先から病院に電話して研修医に帰宅の指示ないし許可を出すのが常態であったと認められること(乙13,14),研修医においても午後7時を過ぎて直ちに帰宅することは異例のこととの認識であること(乙15)等の事実に鑑みると,研修医の労働が午後7時に終了したとは認め難く,労働終了時刻は原則として午後10時であったと認めるのが相当である。

② 土曜日,日曜日の労働時間

(イ) 前記認定からすれば,休日でない土曜日については,労働の開始時刻は午前7時30分,労働の終了時刻は午後2時であったと認めるのが相当である。

(ロ) 乙7によれば,休診日においては,研修医に特段のプログラムはないが,3名交替で処置の必要な患者には,朝食をはさんで採血,点滴を施行していたことが認められるから,休日である土曜日,日曜日においても,Aらは労働に従事していたと認められる。

弁論の全趣旨によれば,休日である土曜日及び日曜日については,労働の開始時刻は午前7時30分,労働の終了時刻は午後0時であったと認めるのが相当である。

(3) 各日の労働時間(一般的な例外)

① 副直

(イ) 被控訴人らは,Aが研修期間中の6月14日,7月4日,同月8日,同月13日,同月16日,同月26日,同月29日,8月13日に副直をしたものと主張している。

これに対し,控訴人は,7月4日,同月8日にAが副直をしたことは認めているが,6月14日,7月13日,同月16日,同月26日,同月29日,8月13日に副直をした事実は否認している。

(ロ) よってこれら副直の有無について争いのある日に,Aが副直をしたと認められるかどうかについて判断するに,乙21(医師当直日誌)によれば,7月4日と同月8日の当直者名の下部にはAの署名が存在するが,被控訴人らが,Aが当直をしたと主張するその余の日については,同箇所に同人の署名は存在しない。そうすると,控訴人がAの副直を否認する日について,Aが副直をしたことは認めるに足りない。

被控訴人らは,Aの副直についての自らの主張に沿うものとして甲3(研修記録簿)を援用するが,乙9,11,16,弁論の全趣旨によれば,研修記録簿は翌月にまとめて書くもので,必ずしも正確なものでないと認められる一方,乙21は副直手当支給の根拠となる書類であると認められるから,甲3によって副直に関する被控訴人らの主張を認めることはできず,他にこれを認めるべき証拠もない。

以上によれば,Aが副直を担当したのは,7月4日と同月8日の2日間であると認めるのが相当である。

(ハ) 副直は,研修医の指導医が当直として病院に泊まり込むときに,これに付き添って病院に泊まり込む業務であり,Aは,副直の担当日は,当日の原則的な勤務終了時刻から引き続き副直勤務に入り,翌日の原則的な勤務の開始時刻までこれに従事したものと認められる。

なお7月5日については,被控訴人らの主張が,Aが7月4日の副直勤務に引き続き,7月5日の午前7時30分までこれに従事したことを主張する趣旨であるのは明らかであり,Aは,7月5日午前7時30分まで継続して勤務したと認めるのが相当である。

② 手術日

(イ) 前記第2の3(2)②に記載のとおり,被控訴人らは,Aが同所掲記の手術の終了まで立ち会ったことを前提として,Aの勤務時間を主張している。

(ロ) 甲16によれば,控訴人病院においては土曜日,日曜日を除いてほぼ連日に亘って手術が行われ,Aら研修医は火曜日と木曜日の手術に立ち会うこともあったと認められるが,Aが特定の,どの手術に立ち会ったかを認めるべき証拠は存在しない。従って,Aが上記特定の手術に立ち会ったことを前提とする,被控訴人らの主張は採用することができない。

(4) 各日の労働時間(個別の例外)

① 被控訴人らが主張するAの退勤時間は,前記のとおり訂正された原判決別紙「労働時間」によれば,一部の月曜日から金曜日は午後10時よりも早く,一部の休日でない土曜日は午後2時よりも早く,一部の休日である土曜日,日曜日については午後0時よりも早い。先に認定したAの原則的な労働終了時刻よりも早い時刻を,被控訴人らがAの退勤時間として主張しているこれらの日については,被控訴人らの主張の範囲で,被控訴人らがAの退勤時間として主張する時刻を,労働終了時刻と認めるのが相当である。

② 控訴人は,6月13日が休診日であるとして,Aが同日の労働を行ったことを否認するが,休診日であっても研修医が病院に出て点滴等の仕事を行っていたことは既に認定したとおりであるから,Aは6月13日にも労働に従事したと認めるのが相当である。

控訴人は,同日午前10時3分に,Aが自宅から電話を掛けていることを指摘して,Aが同日の勤務をしたことを否認する。しかし,被控訴人らは,6月13日については,Aが午前7時30分から午前8時53分まで勤務したと主張しているのであり,控訴人の指摘する電話をAが掛けているからといって,そのことが,被控訴人らの主張するAの当日の勤務の認定の妨げになるものではない。

以上のとおりであるから,Aは,6月13日は,被控訴人らが主張するとおり,午前7時30分から午前8時53分まで勤務したと認めるのが相当である。

③ 控訴人は,7月20日は休診日であるとして,同日のAの勤務を否認する。

これまでの認定からすれば,休診日であるからといってAが勤務をしていないと直ちにいうことはできないが,甲1によれば,同日午前9時16分と午前10時13分にAの自宅から電話がかけられていることが認められる。被控訴人らは,Aが,7月20日の午前7時30分から午後10時2分まで勤務したと主張するものであるところ,上記認定事実によれば,Aが7月20日に被控訴人らの主張にかかる勤務をしたと認めることができない。

④ 乙7,弁論の全趣旨によれば,Aは8月3日から同月8日まで夏期休暇を取ることにしたこと,しかし,同月5日及び7日は指導医が診断をしたのでAも病院に出て,5日は午後0時頃まで,7日は午後3時30分頃まで指導医の措置を見学していたものと認められる。

8月5日については,被控訴人らはAの退勤時間を午前11時19分と主張しているので,同日の労働終了時刻は被控訴人らの主張の範囲で同時刻と認め,8月7日の労働終了時刻は,上記のとおり午後3時30分であると認める。労働の開始時刻については乙7によっても明確でないから(同証にはAが指導医の処置,診療の見学を始めた時刻についての記載があるが,これが労働の開始時刻を表すかどうかは不明である),原則どおり,両日とも午前7時30分であると認める。

その余の夏期休暇中は,Aは勤務に従事していないと認めるのが相当である。

⑤ 乙7,8には,8月9日に,Aが午後0時30分頃まで入院患者に対する簡単な処置を行ったとの記載があるが,被控訴人らは,同日のAの退勤時間を午後0時と主張しているから,同日のAの労働終了時刻は,被控訴人らの主張の範囲で午後0時と認める。

⑥ 被控訴人らの主張においては,上記に検討した以外の日においても,Aがその労働日において,原則的な労働終了時刻として認定した時刻を超えて労働に従事したと主張する日があるが,その事実を認めるべき的確な証拠は存在しない。

(5) 総括

① 上記認定にかかるAの勤務時間をまとめ,これを法定労働時間内労働,法定時間外労働,休日労働,深夜労働の別に整理すると,別紙「勤務時間一覧表」記載のとおりとなる。

なお,Aの勤務においては,日曜日のほか,第1,第3,第5土曜日以外の土曜日も休日として扱われていたのは前記認定のとおりであるが,労働基準法37条1項の休日割増賃金は,同法35条によって労働者に与えるべきことが定められている休日の労働についてのみ適用されるものであり,弁論の全趣旨によれば,使用者である控訴人病院によってAに与えられた労働基準法35条1項の週1回の休日は,毎日曜日と認めるのが相当であるから,休日である土曜の労働については,当該日の労働が1週の法定時間内に収まる場合は法定時間内労働に,当該日の労働が1週の法定時間内に収まらない場合は法定時間外労働に,それぞれ分類されるべきである。

② 以上によれば,Aが受けるべき最低賃金の額は,以下を合計した60万8745円である。

(イ) 法定時間内労働分

408時間19分×671円/時間=27万3980円

(ロ) 法定時間外労働分

350時間31分×671円/時間×1.25=29万3995円

(ハ) 休日労働分

42時間25分×671円/時間×1.35=3万8422円

(ニ) 深夜割増分

14時間×671円/時間×0.25=2348円

③ 控訴人がAに対して現実に支払った給料額は,18万7500円であるから,以下のとおり,Aはなお42万1290円の賃金請求権を有していたと認められる。

60万8745円-18万7500円=42万1245円

④ Aの死亡の事実及び被控訴人らがAの相続人であることは前記認定のとおりであり,被控訴人らは,上記未払賃金請求権42万1245円につき,2分の1の割合である,各21万0622円ずつを相続したと認められる(以上の計算につき,円未満切捨)。

3 結 論

以上によれば,被控訴人らの控訴人に対する請求は,被控訴人らがそれぞれ控訴人に対し,21万0622円とこれに対する未払い賃金の履行期到来後である平成10年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。

よって,控訴人の控訴に基づいて,これと異なる原判決を変更し,被控訴人らの附帯控訴は理由がないからいずれも棄却し,主文のとおり判決する。

LEFT:大阪高等裁判所第5民事部
LEFT:裁判長裁判官 太田幸夫
LEFT:裁判官 川谷道郎
LEFT:裁判官 大島眞一

(別紙省略)

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