*過労死関西医大研修医未払賃金訴訟最高裁判決 2005.6.3 [#y12602e9]


**学校法人が開設する私立大学附属病院において臨床研修を受けていた医師が労働基準法及び最低賃金法上の労働者に当たるとされた事例 [#be499c9d]

H17.6.3最高裁第二小法廷判決平成14年(受)第1250号(棄却)

***判決理由 [#if1acb04]

上告代理人池上健治ほかの上告受理申立て理由について

1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,関西医科大学附属病院(以下「本件病院」という。)を開設している学校法人である。

(2) 亡A(以下「A」という。)と被上告人X1との間の子であるB(以下「B」という。)は,平成10年4月16日に医師国家試験に合格し,同年5月20日に厚生大臣の免許を受けた医師である。Bは,同年6月1日から本件病院の耳鼻咽喉科において臨床研修を受けていたが,同年8月16日に死亡した。

(3) 本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,2年間の研修期間を2期に分け,① 第1期(1年間)は,外来診療において,病歴の聴取,症状の観察,検査及び診断の実施並びに処置及び小手術の施行を経験し,技術の習得及び能力の修得を目指すほか,入院患者の主治医を務めることを通じて,耳鼻咽喉科の診療の基本的な知識及び技術を学ぶとともに,医師としての必要な態度を修得する,② 第2期(1年間)は,関連病院において更に高いレベルの研修を行う,というものであった。

(4) 平成10年6月1日から同年8月15日までの間にBが受けていた臨床研修の概要は,次のとおりであった。

ア 午前7時30分ころから入院患者の採血を行い,午前8時30分ころから入院患者に対する点滴を行う。

イ 午前9時から午後1時30分ないし午後2時まで,一般外来患者の検査の予約,採血の指示を行って,診察を補助する。問診や点滴を行い,処方せんの作成を行うほか,検査等を見学する。

ウ 午後は,専門外来患者の診察を見学するとともに,一般外来の場合と同様に,診察を補助する。火曜日及び水曜日には,手術を見学することもある。

エ 午後4時30分ころから午後6時ころまで,カルテを見たり,文献を読んだりして,自己研修を行う。

オ 午後6時30分ころから入院患者に対する点滴を行う。

カ 午後7時以降は,入院患者に対する処置を補助することがある。指導医が不在の場合や,指導医の許可がある場合には,単独で処置を行うこともある。

キ 指導医が当直をする場合には,翌朝まで本件病院内で待機し,副直をする。

(5) Bは,本件病院の休診日等を除き,原則的に,午前7時30分から午後10時まで,本件病院内において,指導医の指示に従って,上記のような臨床研修に従事すべきこととされていた。

(6) 上告人は,Bの臨床研修期間中,Bに対して奨学金として月額6万円の金員及び1回当たり1万円の副直手当(以下「奨学金等」という。)を支払っていた。上告人は,これらの金員につき所得税法28条1項所定の給与等に当たるものとして源泉徴収を行っていた。

(7) Aは,平成17年1月5日に死亡し,被上告人X1及びAと被上告人X1との間の子である被上告人X2がこれを相続した。

2 本件は,被上告人らが,Bは労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの。以下同じ。)9条所定の労働者であり,最低賃金法(平成10年法律第112号による改正前のもの。以下同じ。)2条所定の労働者に該当するのに,上告人はBに対して奨学金等として最低賃金額に達しない金員しか支払っていなかったとして,上告人に対し,最低賃金額と上告人がBに対して支払っていた奨学金等との差額に相当する賃金の支払を求める事案である。

3 研修医は,医師国家試験に合格し,医籍に登録されて,厚生大臣の免許を受けた医師であって(医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)2条,5条),医療行為を業として行う資格を有しているものである(同法17条)ところ,同法16条の2第1項は,医師は,免許を受けた後も,2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとすると定めている。この臨床研修は,医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして,研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たるものというべきである。

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,研修医が医療行為等に従事することを予定しており,Bは,本件病院の休診日等を除き,上告人が定めた時間及び場所において,指導医の指示に従って,上告人が本件病院の患者に対して提供する医療行為等に従事していたというのであり,これに加えて,上告人は,Bに対して奨学金等として金員を支払い,これらの金員につき給与等に当たるものとして源泉徴収まで行っていたというのである。

そうすると,Bは,上告人の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして労働基準法9条所定の労働者に当たり,最低賃金法2条所定の労働者に当たるというべきであるから,上告人は,同法5条2項により,Bに対し,最低賃金と同額の賃金を支払うべき義務を負っていたものというべきである。

これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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出典 : 松山大学法学部 http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/kannsaiidaihanketubunn.htm

判例 2005(平成17)年06月03日 第2小法廷判決 平成14年(受)第1250号 未払賃金請求事件

未払賃金請求事件 (最高裁判所 平成14年(受)第1250号 平成17年06月03日 第二小法廷判決 棄却)

原審 大阪高等裁判所 (平成13年(ネ)第3214号、平成14年(ネ)第107号)

主    文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。
     

理    由

上告代理人池上健治ほかの上告受理申立て理由について

1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,関西医科大学附属病院(以下「本件病院」という。)を開設している学校法人である。

(2) 亡A(以下「A」という。)と被上告人X1との間の子であるB(以下「B」という。)は,平成10年4月16日に医師国家試験に合格し,同年5月20日に厚生大臣の免許を受けた医師である。Bは,同年6月1日から本件病院の耳鼻咽喉科において臨床研修を受けていたが,同年8月16日に死亡した。

(3) 本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,2年間の研修期間を2期に分け,① 第1期(1年間)は,外来診療において,病歴の聴取,症状の観察,検査及び診断の実施並びに処置及び小手術の施行を経験し,技術の習得及び能力の修得を目指すほか,入院患者の主治医を務めることを通じて,耳鼻咽喉科の診療の基本的な知識及び技術を学ぶとともに,医師としての必要な態度を修得する,② 第2期(1年間)は,関連病院において更に高いレベルの研修を行う,というものであった。

(4) 平成10年6月1日から同年8月15日までの間にBが受けていた臨床研修の概要は,次のとおりであった。

ア 午前7時30分ころから入院患者の採血を行い,午前8時30分ころから入院患者に対する点滴を行う。

イ 午前9時から午後1時30分ないし午後2時まで,一般外来患者の検査の予約,採血の指示を行って,診察を補助する。問診や点滴を行い,処方せんの作成を行うほか,検査等を見学する。

ウ 午後は,専門外来患者の診察を見学するとともに,一般外来の場合と同様に,診察を補助する。火曜日及び水曜日には,手術を見学することもある。

エ 午後4時30分ころから午後6時ころまで,カルテを見たり,文献を読んだりして,自己研修を行う。

オ 午後6時30分ころから入院患者に対する点滴を行う。

カ 午後7時以降は,入院患者に対する処置を補助することがある。指導医が不在の場合や,指導医の許可がある場合には,単独で処置を行うこともある。

キ 指導医が当直をする場合には,翌朝まで本件病院内で待機し,副直をする。

(5) Bは,本件病院の休診日等を除き,原則的に,午前7時30分から午後10時まで,本件病院内において,指導医の指示に従って,上記のような臨床研修に従事すべきこととされていた。

(6) 上告人は,Bの臨床研修期間中,Bに対して奨学金として月額6万円の金員及び1回当たり1万円の副直手当(以下「奨学金等」という。)を支払っていた。上告人は,これらの金員につき所得税法28条1項所定の給与等に当たるものとして源泉徴収を行っていた。

(7) Aは,平成17年1月5日に死亡し,被上告人X1及びAと被上告人X1との間の子である被上告人X2がこれを相続した。

2 本件は,被上告人らが,Bは労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの。以下同じ。)9条所定の労働者であり,最低賃金法(平成10年法律第112号による改正前のもの。以下同じ。)2条所定の労働者に該当するのに,上告人はBに対して奨学金等として最低賃金額に達しない金員しか支払っていなかったとして,上告人に対し,最低賃金額と上告人がBに対して支払っていた奨学金等との差額に相当する賃金の支払を求める事案である。

3 研修医は,医師国家試験に合格し,医籍に登録されて,厚生大臣の免許を受けた医師であって(医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)2条,5条),医療行為を業として行う資格を有しているものである(同法17条)ところ,同法16条の2第1項は,医師は,免許を受けた後も,2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとすると定めている。この臨床研修は,医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり,教育的な側面を有しているが,そのプログラムに従い,臨床研修指導医の指導の下に,研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして,研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たるものというべきである。

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件病院の耳鼻咽喉科における臨床研修のプログラムは,研修医が医療行為等に従事することを予定しており,Bは,本件病院の休診日等を除き,上告人が定めた時間及び場所において,指導医の指示に従って,上告人が本件病院の患者に対して提供する医療行為等に従事していたというのであり,これに加えて,上告人は,Bに対して奨学金等として金員を支払い,これらの金員につき給与等に当たるものとして源泉徴収まで行っていたというのである。

そうすると,Bは,上告人の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして労働基準法9条所定の労働者に当たり,最低賃金法2条所定の労働者に当たるというべきであるから,上告人は,同法5条2項により,Bに対し,最低賃金と同額の賃金を支払うべき義務を負っていたものというべきである。

これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋)

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