医療の国際比較 †

次に国民医療費の国際比較を示します。日本の国民 1 人当たりの医療費は世界第 7 位、GDP 比では 19 位になります。日本はオリンピックでは数個の金メダルで喜んでいます。またサッカーの日韓ワールドカップではベスト 16 ですから、日本の国民医療費もこの程度で良いと考えている国民が意外に多くいます。しかしここに大きなトリックが隠れているのです。

この国際比較は国民 1 人当りの医療費であって、患者 1 人当りの医療費ではないのです。日本は皆保険制度のため医療機関と患者さんとの垣根が低く、そのため医療機関を受診する患者さんが非常に多いのが特徴です。従って国民 1 人当りの医療費ではなく、患者 1 人当りの医療費として計算すると、日本は世界ダントツの最下位になります。言葉は悪いのですが、患者 1 人当りの医療単価は極端に安いのです。

国民医療費の国際比較 ( 1996 年 ) †

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国民 1 人当りの年間受診回数、つまり国民 1 人が医療機関を 1 年間に何回受診するかというと、日本は 21 回です。いっぽう欧米人は日本の 4 分の 1 くらいしか受診しません。欧米では多少具合が悪くても病院に行かないのです。その理由は、1 回受診当たりの総医療費が日本では 7000 円ですが、アメリカでは 6 万 2000 円、スウェーデンでは 8 万 9000 円と欧米では医療費が高いという垣根があるので、病院を受診する患者が少ないのです。

患者さんにとって、日本の医療費が安いということは非常に良いことです。日本の患者さんは世界一安い医療を平等に受けています。

しかし医師や看護師などの医療従事者は薄利多売方式の医療に疲れ切っています。日本の医療は「患者さんが多く、医師が少ない」ので、外来での診察は待たされ、診察時間も短いのです。欧米の医師が外来で診察する患者さんは 1 日 10 人程度です。欧米では時間を十分にかけて診察するので、患者さんの満足度はむしろ日本より高くなっています。

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入院期間の国際比較では、アメリカは入院期間が 7.8 日に対し、日本は 33.5 日と長いのが特徴です。そのため日本の長い入院期間を医療費の無駄と政府は盛んに宣伝しています。しかし欧米では病院を支援する福祉施設が整っているのに、日本は福祉施設が少なすぎるのです。

患者さんの帰る場所がない、引き受け先がないので、社会的入院になってしまう。このような社会的背景があるのです。日本は福祉が遅れており、病院が福祉の肩代わりをしているのに、入院を長引かせて病院が儲けているという悪いイメージが植え付けられています。いっぽう欧米では医療費が高すぎて入院できないという事情があります。

日本では急性期病院に長期入院している患者さんの自己負担は月 8 万円前後ですが、慢性期病院や老人施設に入所すれば自己負担は 20 万円以上かかります。

患者さんから「 3 ヶ月で病院を追い出される」という言葉をよく聞きますが、これは入院費の仕組みが、短期入院患者の 1 日当たりの入院料金が 16610 円と高く、長期入院患者の入院料金が 1 日当たり 9850 円と安く設定されているからです。長期入院患者さんの入院料金では、病院は赤字になります。家で面倒をみてもらえない老人の患者が経済的理由から退院したくない心理も理解できます。しかし病院にとっては退院してもらわないと赤字が増え倒産となります。これほど長期入院患者さんの医療費は安いのです。

日米病院職員数の比較 ( 長崎大・高岡教授 ) †

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病院の職員数を日米間で比較しました。ほぼ同じベッド数であるボストンのセントエリザベス病院と日本の国立病院の職員数を比べると、職員数に 10 倍の差があります。医師の数が 10 倍、看護師の数が 8 倍、その他、アメリカには多くのパラメディカル、ボランティアが病院の仕事を手伝っています。病院は職員が多ければ多いほど手厚い医療ができます。しかし日本は職員数が極端に少なく、少ない人数で一生懸命働いているのです。

ベッド 100 床当りの医師数は、アメリカは 71.6 人、日本は 12.5 人で、看護師数はアメリカ 221 人、日本 43.5 人となっています。厚労省は医師過剰時代と宣伝していますが、はたして日本の医師や看護師は過剰なのでしょうか。むしろ少なすぎます。昨年来、医師の名義貸しが問題になりましたが、北海道・東北地方では医師の配置基準を満たしていない病院は 48%、全国では 25% でした。これが現状なのです。

また「横浜市大の患者取り違い事件」は 1 人の看護師が 2 人の患者が乗った 2 台のベッドを病室から手術室まで運んだことが本当の原因なのです。当然おこりえる事故でした。

病院に入る診療報酬が少なければ、この人件費を切りつめるしか方法はありません。また診療報酬が少なければ医療の質を上げることも、医療の安全性を高めることもできません。ですから日本政府がアメリカの医療を真似しろといっても、マンパワーの確保を解決しなければ単なる空論にすぎないのです。民宿の値段で一流ホテルのサービスを強要するようなものです。医療費が安いため医師、看護師を雇えないという問題が解決しない限り、医療の改善は無いものねだりの相談になります。

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Last-modified: 2008-09-10 (水) 13:52:51 (3300d)