日本の医療をどうするか †

国民の多くは病院で生まれ、病院で死にます。「ゆりかごから墓場まで」の医療福祉は「紙オムツから紙オムツまで」の医療福祉となっています。日本人にとって一番の関心事は医療福祉でありながら、このように身近で大切な医療福祉が、崩壊寸前にあることをまだ多くの国民は気づいていません。

昨年の総選挙において、各政党は「医療のあり方」だけでなく「医療の現状」さえも故意に隠しました。各党のマニフェスト ( 公約 ) を読んでも、医療については曖昧な言葉で国民の目を誤魔化しました。

政策を具体的数値で示さないのは無責任政治であり、雰囲気だけで丸め込もうとする言葉だけの政策は、本来の政党政治とはいえません。このような政治に期待はできません。むしろ騙されないように常に監視する必要があります。

厚労省官僚は秀才集団です。日本の医療について何でも知っているはずなのに、財務省主導の医療費抑制政策に反対できず、また医療現場にゆがみをもたらしています。社会の木鐸であるマスコミは「日本の医療が悪いのは、提供する医療側が悪い」という図式に固まっています。このような背景の中で、医療、福祉を改善させる方法はないのでしょうか。

残された方法は、何も知らされていない国民に、「医療のあり方」「福祉のあり方」を直接説明して判断してもらうことしかありません。医療改革が医療改悪であることを分かってもらい、医療費抑制政策の間違いに気づいてもらい、国民が満足する、納得する医療を作り上げる以外に方法はないのです。

世界で一番良い医療を、世界で一番安い値段で治療を受けていることを国民は知りません。さらに医療費の自己負担増を自己責任という美名で政府が誤魔化していることを知りません。何も知らない国民は、医療をサービス業と考え、満足できる医療を受けられないのは、医療を提供する医療側が悪いと思っています。またかつての病院は、家族が患者さんに付き添い、食事や排便の世話をしていました。そのため家族は生死の実情や病気そのものを漠然と理解し、医師や看護師が忙しく働いているのを知っていました。厚労省が家族の付添を禁止したため、面会だけにくる家族は病院の実情を知らず、病院への不信感を抱くようになったとも考えられます。

国民の医療に対する満足度が低いのは医療従事者が怠慢だからではありません。これは大きな誤解です。国民医療費が少ないため、人的パワーが少なく、患者さんに満足してもらえる医療サービスを提供できないのです。

まず医療の主人公である国民に医療の現状を分かってもらい、国民を不幸に導く最悪のシナリオを変えることです。国民の意識が変われば、政治家の意識も、マスコミの報道も必ず変わるはずです。美辞麗句に慣らされてきた国民にきれいごとは通用しません。昨年の総選挙で各党が作った写真とイラストだけのマニフェストなどは意味がありません。このわら半紙に文字と図だけの説明で十分理解できると思います。国民は、政府から、マスコミから何も知らされず愚衆化されています。

しかし日本国民は決して愚衆ではありません。世界水準を超える知的民族だと信じています。正しい説明、正しい資料を提示すれば必ず正しい判断をしてくれるはずです。

日本医師会は国民の健康を守ることを常に優先して考えています。日本医師会は自分たちの利益を守る団体という大きな誤解と邪推を受けています。しかし医療の現場を知る医師会は、国民の生命と幸せを守るための医療を真剣に考えています。国民の健康と生活を守ることを大きな課題として取り組んでいるのです。

医療は社会的基盤といえます。近所に小児科医の病院や救急病院があれば、それだけで安心して住民は過ごせるのです。この医療という社会的基盤が崩れれば、国民は不幸になるだけです。しかし現在、国のみならず地方自治体も病院の赤字縮小ばかりを考え、公的病院を廃院にしようとしています。医療の公共性を考えず、無駄な道路を造りながら病院の撤退ばかりを考えています。国や地方自治体は、国民や住民に対して公的なサービスを行う責任があるはずです。医療、福祉、安全保障、このように必要なことは、たとえ採算がとれなくても行う義務があるはずです。住民が安心して住める社会、つまり医療、介護、福祉、治安の維持を堅持することが行政の任務のはずです。

医療に効率を求めるという考えは、医療の無駄をはぶくというイメージがあります。しかしそれは間違いです。多くの病院が赤字なのは病院が赤字になるように日本の医療が統制されているからです。赤字を非難するならば、赤字を誘導している医療体制、医療政策を非難すべきです。

資本主義社会における効率化は良い製品をより安く売るための競争ですが、この効率主義を別の言葉で言い換えれば金儲けのための企業の論理と表現することができます。最近、この企業の論理を医療に持ち込もうとする動きがあります。しかし彼らの理屈は根本的に間違っているだけでなく、国民を不幸のどん底に陥れる危険性を含んでいます。医療制度の美味しい部分だけを食い荒らし、儲からない患者さんを突き放すことになります。医療を必要とする患者さんが医療から追い出され、福祉の恩恵も受けられず、医療難民が路頭に迷うことになります。

日本の医療は統制医療であり、診療報酬、つまり、利益誘導、損益誘導によって医療が牛耳られています。そのため医療にとって最も大切な小児科や救急医療の診療報酬が低く設定されているので、病院がそれやりたくても、赤字になるので出来ないのです。この医療現場を知らない者が作る医療システムが根本的に間違っているのです。

政府は厚労省の医療政策とは別に、総合規制改革会議で医療改革を進めています。総合規制改革会議の議長はオリックス会長の宮内義彦氏で、構成員 15 人には医療関係者は 1 人も含まれていません。そして医療改革の内容は、医療への市場原理の導入なのです。

医療への企業参加を認め、医療に競争の原理を導入させることは、アメリカの医療の物まねですが、この政策の根底には、医療の自由化という美名のもとに、国が出すべき医療費を患者さんに転嫁させることなのです。

「医療への企業参入は、すなわち医療に金儲け主義」を持ち込むことであり、日本の医療の根底を覆す危険性があります。現在、日本国民の約 3 割の人たちが、65 歳以上では 6 割以上の人たちが通院生活を余儀なくされています。このように私たちは生を受けてから死を迎えるまで、医療と深い関わりを持つ運命にあります。国民の誰もが健康を願い、不幸にして病気になった時には、当然のこととして最善の医療を望みます。しかし日本の医療を理解しているひとはわずかばかりで、多くの人々は日本の医療を知らないでいます。日本の医療の現状を知り、日本の医療が崩壊の危機に面していることに気づいてほしいのです。

身近な問題である日本の医療について、国民的な議論と認識が必要です。日本の医療をどうするのか。住民の健康を守る医療、いざという時に対応できる医療、国民や住民に安心感を与える医療の充実をはかるべきです。

政府が国民の健康と生命を軽視するならば、また医療改悪を続けるならば、医療を良くするために行動を起こすべきです。医療を他人の問題のようにとらえてはいけません。いずれ誰でも病気になり、医療の現実と直面するのです。そのときに後悔しないように、医療を身近な問題として真剣に考え行動すべきです。

国民の一人ひとりが日本の医療の現状を知り、そのあり方を議論し、理想に近い満足できる医療にして欲しいのです、真面目な議論が、日本の医療、日本の社会を明るく照らしてくれることを願っています。


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Last-modified: 2008-09-10 (水) 13:52:53 (3360d)